刑事コロンボ
初めからもれなく見ていたかと問われたら自信がない。調べてみたら1972年から1979年放映とある。ちょうど小中学生の頃だ。小学生時代は9時には寝かされていたからおそらく中学生になってから見ていたと考えられる。
小学生のときシャーロックホームズを読破。推理小説に興味を持つが、アガサ・クリスティの『ABC殺人事件』で挫折。手っ取り早くテレビドラマを見て楽しむことが増えた。
「コロンボ刑事」は、いきなり犯人が殺人を犯すシーンから始まるのでわかりやすいし斬新だった。アメリカドラマの先進的な暮らしぶりを見るのも楽しかった。
ところが懐かしくなって見てみたら、思ったほどおもしろくなくてびっくりした。ひさしぶりだから楽しみだったのに、途中で見るのをやめてしまった。
「刑事コロンボ」に登場する犯人は社会的地位の高い成功者たちである。頭もいいという設定だ。バブルを思わせる無駄に豪奢な暮らしぶりをさんざん見せつけられるのにもうんざりくる。コロンボがようやくみすぼらしく登場。この庶民代表のようなコロンボが切れ味鋭く知性を発揮し、自信満々な犯人をコテンパンにするのがお約束。スカッとするはずだったのだが。
どういうわけかアガサ・クリスティや横溝正史のように楽しめなかった。
社会的成功者の高慢さが滑稽なくらい嫌味なのはいい。悪者なんだから。ただ今を風刺しているというか、妙に生々しい。かつて先進的でおしゃれに見えたアメリカの暮らしぶりは嘘のように時代遅れに見える。豊かになった現在を皮肉られているようだ。時代劇や西部劇を見るようにはとても楽しめない。まだ古典とするには新し過ぎるからだ。
みどころだったコロンボ刑事と犯人との知的な対決も、今となっては調子に乗った成金が調子に乗って安易に殺しちゃった事件にしか見えないからふしぎ。
少し現代風にリメイクしたらおもしろいかも。
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渡瀬恒彦の十津川警部に違和感
さらに時代が進み「火曜サスペンス」に「土曜ワイド劇場」など二時間ドラマの全盛期到来。
筆者も好きでよく見ていた。二十代前後だったと思う。その頃のサスペンスを懐かしんでTverで見ると、喫煙シーンやベッドシーン、裸の遺体などが多くてギョッとする。最近すっかりテレビで再放送しなくなったわけがわかった。
先日、渡瀬恒彦の十津川警部を見て、当時から抱いていた違和感を思い出した。
十津川警部がやたら女性にモテるのだ。とにかく登場する女性はみな十津川警部にどういうわけかメロメロになるのだ。「いい男」とうっとりする女性たちが見苦しい。渡瀬恒彦がいい男という設定を否定するつもりはない。しかし筆者はこの点を当時から不自然に思っていたのだが、あらためて確信した。
「かっこいいだろう」といわんばかりの押しつけがましさが鼻につく。逆に女性は裸にすればいいという雑さが目に余る。
渡瀬恒彦の十津川警部はいわゆるハードボイルド系で、一見女性に厳しく冷たい態度をとる。事件解決のためなら少々強引な手段もおそれない情熱的な刑事である。はじめは反発的だった女性も徐々に十津川警部に惚れていく。また相棒の亀井刑事も十津川に惚れているひとり。十津川は男が惚れる男という設定なのだ。悪い奴には暴力も辞さない脅しのような取り調べもあたりまえで、そういうのがむしろかっこいいとされた向きがある。
女性の前では口数が少なく、女性に不慣れな感じのほうがむしろ好感が持たれたか。女性は女性で男性に好まれるタイプがあった。いわゆる良妻賢母型だ。女性はみなそれを目指すところがあった。そんな時代だったと言ってしまえばそれまでだが、当時から変だと思っていた人は少なからずいたと思う。ただ声にならなかっただけなのだ。今もそうした声にならない声が渦巻いている。
ところで十津川警部は時代だけでなく俳優によってもずいぶん雰囲気が異なるのが興味深い。
西村京太郎の原作ではどんな感じなんだろう。
価値観が変わるスピードがすごい
ほんの数年前のものを見ても古臭いと感じてしまうものがある一方、古さを感じさせないものがある。その違いは何だろうと考えてみた。
時代とともに価値観が大きく変化してしまっているにもかかわらず、そのズレに無自覚でそのズレが目立つ作品は見づらい。善悪、正否といった価値観は、下手をすれば真逆に変わる。長く生きれば生きるほど、そうした激変を体験する機会が増える。そのスピードがますます速くなる気がするのは気のせいか。最近では三十代、四十代でもソフト老害を自覚するというからたいへんだ。情報の拡散スピードが上昇し続けているからか。
その一方、時代が変わっても基本的に変わらないなあと思うものもないではない。たとえば人間の喜怒哀楽なんかは、時代を超えて味わえるもののひとつではないだろうか。
おそれず変化していくこと、また変わらないものを大切にすること、どっちも大事でいいと思う。
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