謎めいた尾崎翠の今読んでも新しい小説

地下室アントンの一夜

尾崎翠(おざきみどり)は、新潮文庫の<日本文学100年の名作第2巻>掲載の「地下室アントンの一夜」を読んではじめて知った。代表作に『第七官界彷徨(だいななかんかいほうこう)』がある。<日本文学100年の第2巻>というのは1924年(大正13)から1933年(昭和8)までの作品がおさめられている。その時代背景とともに次のように紹介されている。

関東大震災(1923、大正12)からの復興、昭和改元、漂う大戦の気配—。この10年だから生まれた、厳選15編。

復興、改元、戦争の気配というと、今に通じるものがありそうな時代である。とはいえこのアントンの異質さにはびっくりした。amazonレビューで「アニメで見てみたい」と書いている人を見かけたが、確かに今のアニメにありそうな数値を駆使した科学っぽい世界観である。

当時の作品は私小説が主流。ストーリー展開が多少ドラマチックなのはあるものの、こういう奇想天外なものは見当たらない。

尾崎翠は新し過ぎた。「地下室アントンの一夜」は『第七官界彷徨』の分身と解説されている。やっと時代が尾崎翠に追いついたのかもしれない。今こそ読みたい小説のひとつとして知ってほしいと思う。

スポンサーリンク

謎だらけの尾崎翠

これほど新しい感覚をめざした小説が、八十年以上も前に書かれていたことに驚く。

(中略)

日本の文学風土になじまず、作品の評価が始まったのは発表後、三十年あまりしてからである。

と解説にある。

尾崎翠とはいったいどういう人だったのか。

略歴によると、1933年(昭和8)に『第七官界彷徨』を刊行し、注目を集めたものの、その前年より幻覚症状などの体調不良のため鳥取県に帰郷。戦中・戦後は不明。一時行商をしていたという記述もある。

1969年(昭和44)に『第七官界彷徨』が再発見されるも執筆はもちろん、面会も固辞。老人ホームにて1971年(昭和46)ひっそり死去とある。

語らずじまいで想像をかきたてる

とうとう尾崎翠は作品について何も語らないまま世を去った。

だから余計に「ああだったんじゃないか、こうだったのでは」と想像をかきたてる。同時代の金子みすゞが思い出される。

さまざまな時代背景の中、とくに女性はのびのびと自由に創作できなかったであろうことは容易に想像できる。そうした逆境にあったからこそ生み出された作品だったとすれば、皮肉でかなしい。

合わせて読みたい関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください