高野秀行氏の感想文につられて
新刊を読む余裕はない。とはいえ、つい広告や書評につられて読みたくなる。ノンフィクション作家の高野秀行さんの記事を読んで、読まずにいられなくなった。
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思ってたより分厚くて字が小さいのにひるむ
予約を入れた図書館で本を受け取ったとき、思っていたよりずいぶん分厚くて字が小さいことに正直ひるんだ。好きなミステリーでもないし、女性のサクセスストーリーにそれほど興味があるわけでもない。「途中でやめてしまうかも」と不穏な予感。そうでなくとも読みなれない翻訳本。されど予約待ちが9人。絶対二週間で返却しなければならない。
主な登場人物が親切にまとめられたページがあり、人数も多くなかったことや人間関係もそれほど複雑でなかったのはせめてもの救い。それでも二週間では読み切れず、ページを記録していったん返却。再予約してどうにか読み終えた。などと言うと、面白くなかったように思われるかもしれないが、そんなことはない。たいへん面白かった。だからこそ、わざわざ二回も順番待ちしてまで読んだのだ。読むのが速くないだけのことである。
とくに終盤。たたみかけるような逆転劇が爽快で楽しい。高野秀行氏が本物のエンターテイメントと書いていたのがよくわかる。
昔はひどかったですませない
主人公であるエリザベス・ゾットは有能な化学者でありながら、女性というだけでチャンスに恵まれずにいた。奇跡的に巡りあった愛するキャルヴィン・エヴァンズとも結婚しないことを選ぶ。天才化学者として有名だったエヴァンズの妻になってしまうと、エリザベス・ゾット個人の正当な評価が得られなくなると考えたからだ。
くしくも今朝の朝ドラ「虎に翼」の虎子は、苦労して弁護士になったものの、女性ということでまったく仕事を依頼してもらえない。そこでとうとう社会的信用を得るための結婚を決意するのだった。
どんな世界であれ、はじめての道を切り開く人の勇気は計り知れない。少しばかり妥協して、ちょっと楽する方法を選ばない姿勢に驚くとともに敬意を持つ。しかしこうした先人たちは、もしかしたら特別強くて有能だったからそうしたというのではないのかもしれない。その道以外考えられない切実な環境に、たまたま立たされてしまっただけだったかもしれない。
ひどいことをしてきた悪者たちを、最後にぎゃふんと懲らしめて、主人公エリザベス・ゾットが化学者としての道を歩み出すというシンプルなエンターテイメントとして楽しむのもいい。昔はひどくてたいへんだったと振り返るのもいい。
しかし、それだけではもったいない。これは決して昔の話ではないのだ。今も理不尽に泣いているわたしたちを、エリザベス・ゾットは力強いユーモアで元気づけてくれている。
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