衣食住なんでもシンプルがいいと思う。
シンプルというと、今のご時世なんかかっこいい。
でも世の中はそんなにシンプルにはできておらず、ほんとは複雑でわけがわからない。
わからないのは何だか不安。
だからわかりやすくシンプルにしたくなる。
難しいことを簡単にすることはできない。
養老孟子氏が何かで
難しいことを簡単に述べることはできない。
というようなことを書いていたことがある。
よくわからないまま読んでいたが、この頃少しわかる気がする。
シンプルは簡単や簡潔、単純といった意味だけれど、それとわかりやすいかどうかは別だ。
ところがいつの頃からか、「シンプルにすればわかりやすくなる」と思い込んでいる。
複雑で難しいことは、分類したり、ときに捨てたりなんかして、シンプルなかたちにするのだけれど、そんなふうに分解したからといって、わかりやすくなるとは限らない。もしかしたら複雑でむずかしいことがらの構造ぐらいはわかるようになるかもしれないが、かえって全体像が見えなくなることもある。
「シンプルにすればわかりやすい」というのは勘違いだ。
ものごとの多くはシンプルではない。
ものは考えようとはいえ、シンプルなものごとはほとんどない。
だからどうやって生きていこうか、どう考えるか、何をしようか、と思ったとき、指針となる軸みたいなものがほしくなる。で、それはシンプルなほど好ましいと思う。
シンプルは複雑すぎる現実の対極にある憧れみたいなものなのだ。
複雑で不均衡で混沌とした現実の中で、いつどうなるかわからない綱渡りのような日々は、不安でコワくてたまらなくなる。
だから何となくすっきりした気分にさせてくれるシンプルを好ましく思う。
でも、変わり続ける世界の中で生きるということは、やじろべえみたいに揺れながら、自分なりのいい塩梅を試行錯誤し続けることなのかもしれない。
そう思うと、シンプル志向の「選択と集中」もほどほどにしないと。
どっちつかずで時間を稼ぐしたたかさもときには必要かもしれない。
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