星新一の不思議な不思議な短編ドラマ
学生の頃、星新一の短編にハマった時期があった。『生活維持省』も読んだことがあったかもしれないが、まったく覚えていなかった。
先日NHKのドラマを見て、どういうわけか強烈に印象に残っている。
星新一の話は笑えない。
「いただきます」の世界
生活維持省とは、人口をコントロールする役所である。無差別にコンピューターで選ばれた人が問答無用でなぜか射殺される世界なのだ。そのおかげで環境汚染や貧困、暴力といった社会問題の発生を抑制できているというのである。
以前読んだときは、馬鹿々々しいですませていたかもしれない。でも今は笑えない。
コンピューターで公平に選んでいないだけで、殺しているのは現実も同じだなあと気づかされたからだ。
たまたま貧困国や紛争地、海に沈みゆく島国に生まれなかっただけで生き延びて、さらにどこかの誰かを無自覚に虐げることで、どうにか今の生活が成り立っていると思うと、この現実世界も物語の世界と大して変わらない気がしないでもない。
それがフェアでないと憤るべきなのかもわからない。なぜなら生き物は、互いにその命を奪い合う「いただきます」の世界だからだ。
ただ寝覚めが悪い
誰一人落ちこぼれることなく、みな同じように幸せに暮らせる世界なんてあるんだろうか?
極端な貧困や暴力は抑制したほうがいいに決まっている。でもその程度はいったい誰が決めるのか。
世界じゅうの人間が先進国と同じような暮らしをしたら、地球環境はいったいどんなことになるんだろう。
わたしの思うあたりまえの暮らしは、誰かを踏みつけにして成り立っているかもしれない。そう考えると、どうにも寝覚めが悪い。
裕福へのあこがれと生活苦の不安の間で揺れ動いている。
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